泉陽高校63期生の桔梗と申します。 現在は書道家として、作品制作と書道パフォーマンスの両方に力を注いでいます。 昨年はニューヨークやベトナムへ渡り書道パフォーマンスを披露したほか、大阪・関西万博「大阪ヘルスケアパビリオン」のステージにも出演にお声がけいただくなど、さまざまな場で「書」を表現させていただいております。
また、日本書画共創協会の会長として、自身の表現を追求するだけでなく、「書くこと」の楽しさや魅力を伝える活動にも尽力しています。 堺市を拠点に、子どもから大人まで幅広い世代の方々と向き合い、手書きの温かさやその奥深さを共有しています。
私が泉陽高校で過ごした時間は、決して順風満帆ではありませんでした。 入学して間もなく、中学校からの環境の変化に心が追いつかず、心の病を発症してしまいました。それまで当たり前だった日常が、変わってしまったような気がしていました。学校へ行くこと、人と会うこと、将来を考えること。その一つひとつが重くのしかかり、気力が枯渇する日々が続きました。
周囲と同じようにできない自分への焦りや悔しさ、不安を抱えながらの闘病生活でした。心身ともに落ち着きを取り戻すのは、卒業から数年かかりました。高校時代は、暗いトンネルの真っ只中の時期と重なっていましたが、今振り返ると、この苦難は私にとって非常に意味のある時間だったと感じます。 心の底まで落ちるような経験をしたからこそ、人の痛みや悲しみにより共感できるようになれたのだと思います。
辛い日々の中で、私を静かに、しかし力強く支えてくれたのが「書くこと」でした。言葉にならない感情や行き場のない思いを、ただ文字として紙の上に置いていく。筆を執り、墨の香りに包まれ、無心で文字と向き合う時間は、ざわつく心を鎮めてくれる大切なひとときでした。 書道は私にとって、技術を磨くこと以上に、自分自身と対話するための手段でした。高校時代に書と向き合い、自分の内面を見つめ続けた時間が、今の私の揺るぎない軸となっています。
私たちは普段、他者と自分を比べ、相対的な評価で自分の価値を測ってしまいがちです。しかし書は、数千年という時を超えて受け継がれた文化であり、時代が変わってもその本質的な価値は変わりません。 デジタル化が進む現代だからこそ、書の魅力は色あせるどころか、むしろ一層の輝きを増していると感じます。私にとって書は生きがいであり、今もなお憧れの対象であり続けています。
現在、指導者として多くの生徒さんと向き合う中で大切にしているのは、「書を学ぶ」ということよりも、「書を通して学ぶ」ことです。 一枚一枚、古典と真摯に向き合う中で、丁寧に生きること、過去よりも未来は必ず良くなるということ、そして人は誰しも不完全であるということ。そこには、人生を豊かにする多くの学びがあります。
文字を書く時間が、心を整え、自分をいつくしむ時間になる。その価値を、これからも伝え続けていきたいと考えています。
思うようにいかない現実や、将来への漠然とした不安を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。あるいは、かつての私のように、心のバランスを崩し、出口の見えないトンネルの中にいるような気持ちで過ごしている方もいるかもしれません。「人生100年時代」と言われる今、人生は短距離走ではなく、長い旅のようなものだと思います。 もし今、何もうまくいかないと感じていても、それは長い旅のほんの一場面に過ぎません。
私自身、泉陽高校で過ごした時間は、決して楽しいことばかりではありませんでした。むしろ、闘病の苦しみにもがいた記憶の方が鮮明かもしれません。しかし今、はっきりとこう思えます。 泉陽高校で過ごした時間は、私の人生の土台です。決して楽ではなかった闘病の経験も含め、そのすべてが今の私につながっています。辛さを味わったからこそ、他者の痛みに深く寄り添えるようになりました。言葉にならない悲しみを理解し、それを文字という形に昇華して、心に触れる表現ができるようになったのは、間違いなくあの苦しい時期があったからこそです。
私にとって、その苦しい時期に自分を支えてくれたのは、間違いなく「書道」でした。 皆さんにも、これから先の人生で自分を支えてくれる「何か」や、自分らしい生き方に出会ってほしいと思います。そのための第一歩として、まず自分自身と向き合ってみてください。何ができて、何ができないのか。何が得意で、何が苦手なのか。自分の弱さや限界を知ることは、決して恥ずかしいことではありません。むしろ、自分の輪郭を知ることで、無理なく生きるためのヒントが見つかることがあります。
そして大切なのは、自分の抱えられる荷物の量を超えそうなときは、迷わず誰かを頼ることです。 私自身、多くの人との出会いに恵まれ、支えられてきました。どれほど困難な状況にあっても、必ず誰かが手を差し伸べてくれます。一人で完璧であろうとする必要はありません。遠回りに思える経験も、無駄に感じる時間も、いつか必ずあなただけの「深み」や「強さ」に変わります。焦らず、自分のペースで、あなたらしい道を歩んでください。
泉陽で過ごす日々が、喜びも苦しみも含めて、皆さんの未来を支える揺るぎない土台となることを、心から願っています。
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最後に、1月10日(土)に披露した「令和8年堺市消防出初式」でのパフォーマンスの写真とプロフィールを紹介させていただきます。